こんばんは、ヤギ仙人です。先週はフジテレビのやり直し会見が世間を賑わわせましたが、その陰で話題になったのが「DeepSeekショック」です。中国のベンチャー企業が作った生成AIが世間の注目を集めました。アメリカの株価が一時的に急落するなど現在もその余波が続いているように見受けられます。今回はこの騒動の「注目すべきポイントはどこか?」「問題の本質はどこにあるのか?」について考察します。
DeepSeekショックと注目ポイント
中国のAIベンチャー「DeepSeek」が今年1/20(月)に高性能AIモデルをリリースしました。これがOpenAIのChatGPTに匹敵する性能だと話題を呼び、アップルのアプリストアでのダウンロード数が全米No.1になりました。それを受けて、1/27(月)の米国株式市場でAI関連株が一斉に売られ、高性能半導体のエヌビディアは一時17%も下落。時価総額で6,000億ドル(約93億円)とトヨタ2社分の価値を失いました。この衝撃をソ連に人類初の人工衛星打ち上げで先んじられた「スプートニク・ショック」になぞらえる批評家もいたほどでした。


DeepSeekは中国の杭州市に2023年5月に設立されたAIベンチャー企業です。創業者は梁文鋒氏(写真)で現在39歳。梁氏はAIを使ったヘッジファンド「ハイ・フライヤー」の共同設立者で1兆円を超す資産を運用しています。DeepSeekは金融取引に使うAIの技術開発を行う研究部門として誕生し、その後企業として独立しました。
社員数は200人足らずで少数精鋭。いずれも中国の一流大学である精華大学や北京大学などの新卒か博士号取得者。コンピュータや大規模言語モデルが専門の俊英揃いだそうです。組織も完全ボトムアップ型で自由に議論しながら課題を解決しているとインタビューで梁氏は答えています。そんなベンチャー企業が仕掛けた今回の騒動の注目すべきポイントは以下の3点だと思います。
- ChatGPTと同等かそれ以上の性能であること
- 開発費が安く利用料も低く抑えられていること
- オープンソースであること
1点目、2点目ももちろん注目なのですが、ビジネス上最も重要なのは3点目の「オープンソースであること」。これは要するに、これまでの開発過程や学習のデータをガラス張りにして公開しますよ、ということ。DeepSeekの生成AIをビジネスに活用しようとする企業にとってはとても魅力的な要素なのです。この「与しやすさ」がDeepSeekの生成AIの最大の特長ではないかと思います。
問題の本質はどこにあるのか?
今回の騒動をまとめると、米中の生成AI分野の覇権争い(米中経済冷戦の本丸)と言うことが出来ます。

アメリカからしてみると、相当な開発費をかけてクローズドソースの生成AIを完成させ、さあこれからバカ高い利用料を取って稼ぐぞという時に、中国発のオープンソースで利用料も安く、しかも性能は同等かやや上というライバルが出現したワケです。
米国株式市場のAI関連株が急落したのは、アメリカが独占するはずだったAI関連の巨大なビジネスのシナリオが崩れたからですし、ソフトバンクの孫さんがオープンAIと組んで行おうとしているAI関連への巨額の投資も水泡に帰する可能性があるということです。
① アメリカ国内でDeepSeekに使用制限がかかる
米国内では、すでに国防総省や議会などの主要な行政機関を含む政府職員がDeepSeekアプリを使用することを禁止しています。DeepSeekが取得したデータが中国国内のサーバーに保存され、取り扱いには中国の国内法が適用されるためです。今後は政府職員だけでなく米国内全般に、対象もDeepSeekだけでなく中国製の生成AI全般に規制が広がると思われます。というのは、中国ではすでに海外製の生成AIの使用が禁止されているからです。
② ソフトの中国対ハードのアメリカという構図
DeepSeekの社員の説明でわかる通り、中国には国内に残ってアメリカに対抗しようという優秀なエンジニアが一定数いるようです。そのため、ソフト開発については中国が先行する可能性があります。一方、ハード面の半導体の性能に関してはアメリカに一日の長があります。当面は、「ソフトの中国対ハードのアメリカ」という構図になるのではないでしょうか。最終的な勝者は神のみぞ知る、ですが結局のところ「使いやすいものが残る」というのが歴史的必然であると思います。
今回は「DeepSeekショックの意味」について考えました。生成AIの覇権争いは今後のビジネスを左右する重要な問題ですので、また機会があれば取り上げてみたいと思います。ではまた!